共感力(エンパシー)
サービス業において、単に丁寧な言葉遣いや笑顔で対応するだけでは、お客様の心を動かすことはできません。本当に印象に残るサービスとは、「気持ちをわかってくれた」とお客様が感じる体験を提供できたときに生まれます。そのカギとなるのが「共感力(エンパシー)」です。
エンパシーとは、相手の立場や気持ちを想像し、自分のことのように受け止める力のことです。これは単なる思いやりではなく、観察・想像・共感という複数の能力が組み合わさった接客スキルの一つです。表情、視線、仕草、声のトーン、沈黙の長さという、言葉にならないサインから「今、お客様はどんな気持ちでいるのか?」を読み取る力が、エンパシーには欠かせません。
この力は、サービス現場での「タイミング」に深く関係しています。たとえば、お客様が静かに過ごしたいときに話しかけてしまうと、それだけで不快な印象を与えてしまいます。一方で、「何か困っていそうだ」と気づいた瞬間にさりげなく声をかければ、「よく見てくれている」「安心できるスタッフだ」と感じてもらえるでしょう。タイミングを的確にとらえるためには、お客様の感情を正しく理解することが肝になります。
また、クレームやトラブル対応の場面でも、共感力は大きな効果を発揮します。お客様が怒っているとき、まず必要なのは「謝罪」よりも「共感」です。たとえこちらに過失がない場合であっても、相手への共感の言葉を添えることで、お客様の感情は落ち着きやすくなります。
この、エンパシーを高めるために必要なのは「観察する習慣」を持つことです。お客様の顔色、声のトーン、仕草の変化などに注目し「何か困っていないか」という意識を持つようにすることを習慣にします。もう一つ重要なのは自分をお客様の立場に置き換えることです。自分がその立場だったらどう感じるか?何をしてほしいか?を想像する力がとても大切で、自然な共感を生み出します。
さらにエンパシーは、接客の“質”を高めるだけでなく、自分自身の仕事の働きやすさも向上させてくれます。お客様の感情を理解できると落ち着いて冷静に対応できるようになります。これは簡単そうで難しい、とても重要な要素です。
実はエンパシーは“才能”ではなく“技術”であるということです。小さな気づきと想像力の積み重ねが、やがて「この人に接客してもらえてよかった」と思っていただける力に変わり、人望力へとつながります。
2025年9月12日太田 秀和