磨きあげる真鍮
真鍮(しんちゅう)という金属を知っていますか?これは鉛と亜鉛を使って生成された合成金属のことで黄銅とも呼ばれています。英語ではBrass(ブラス)。ブラスバンドのブラスのことです。金管楽器の主材料は真鍮で作られています。身近なところでは5円玉も真鍮製です。真鍮というのは加熱することで複雑な形にしたり、薄く広げたり伸ばしたり等、加工がしやすいことから古くから楽器やアクセサリーなど様々なものが作られています。深い色合いと重厚感のある輝きが特徴で、時間と共に色や質感が変化していきます。毎日手入れをすることで長く使うことができ、毎日磨くことで何度でも輝きを取り戻すことができます。
ただ欠点もあり、真鍮は湿気や水分に弱く濡れたままにしておくと、変色や緑青(ろくしょう)という錆の発生原因となります。私は金管楽器を使っていたので、この緑青にはかなり悩まされました。そもそも、手や口で奏でるため、汗や唾が付着しやすい構造なのです。したがって、一日でも手入れを怠ると翌日には緑青が湧いていました。それが汗と共に手に付いたりと、なにかと大変な想い出です。
真鍮はステンレスなどに比べて定期的に手入れが必要なので面倒なように思えますが、真鍮の特性を知っていれば長く美しい状態を保つことができます。
一見、面倒な素材のように見える真鍮ですが、別の見方をしてみると「酸化による表情の変化を楽しむ」という角度に移せば、この素材の価値が上昇します。古美術やアンティークの世界などでは、真鍮の変色に味わいを見出し、それを楽しむ文化があります。時間の経過とともに酸化によって表情が変化していく姿を楽しむという、なんとも贅沢な素材なのです。
今回の新店舗オープンにあたり「お店も真鍮の扱いと同じ」だなと強く感じました。毎日の清掃のみならず、使ったものを汚れたままにしておくことや、自分の物でないから雑に備品を扱うこと、お店のものだからと節度無く使用することは、お店自体を老化・衰退させていきます。毎日使っているとどうしても細かな傷がついてしまうものですが、毎日の手入れ次第では使い込まれた味わいのある輝きが生まれるのです。愛着をもって使えば使うほど、どんどん魅力が増していく真鍮。何十年経っても繁盛店でいるためには、この“磨き上げ”こそが一番大切なことと思います。その表情は使っている人それぞれの思い入れや気持ちで輝きを増していくものだからです。自分たちの輝きのかかったお店を育てていきましょう。経年変化を楽しめたら最高です。
残暑厳しい折、体調には十分気を付けましょう!2024年8月15日太田 秀和